AIを活用したクロマグロ養殖の効率化

プロジェクトメンバー

  • 家永 直人  Ienaga Naoto
    システム情報系・助教 知能機能工学域

概要

世界的に水産物の消費量は過去半世紀で約2倍になり,増加の一途をたどっている.マグロ類の中でも市場価値の高いクロマグロは 2014 年に絶滅危惧種に指定され,厳しい漁獲制限が実施されている.
それもあり,太平洋クロマグロの養殖生産数はこの数十年間で大幅に増加した.

2012 年には完全養殖も実現したクロマグロだが,いまだに野生資源に依存している部分があったり,商業規模への拡大に向けては問題があったりする.
そこで我々は,AIを活用することで,それらの問題に多角的にアプローチしている(図).
その中でも,卵質評価システムの開発について詳細を述べる.

クロマグロの種苗は,主に野生で捕獲された若年魚から供給されている.
だが,天然種苗の漁獲は資源状態に左右され不安定だし,野生資源に及ぼす影響も懸念される.

一方,人工種苗は天然種苗よりも生残率が低いという問題がある.
その要因の 1 つとして,卵質の影響が考えられている.
卵質は一般的に孵化後の生残率などから判断されており,孵化前には予測できない.

もし孵化前に卵質を評価できれば,有望な卵のみを選択的に育成することで種苗生産を効率化できると,我々は考え,卵質評価システムの研究開発を進めてきた.
システムは 88%の精度で卵が正常に孵化するかどうかの予測が可能であり,専門家よりも高精度であった.

図:クロマグロ養殖にまつわる問題と解決に向けたアプローチ

参考文献

[1] Ienaga, N.; Higuchi, K.; Takashi, T.; Gen. K.; Terayama, K.: Normal hatching rate estimation for bulk
samples of Pacific bluefin tuna (Thunnus orientalis) eggs using deep learning, Aquacultural Engineering, 98,
102274 (2022).
(https://doi.org/10.1016/j.aquaeng.2022.102274)
[2] Ienaga, N.; Higuchi, K.; Takashi, T.; Gen. K.; Tsuda, K.; Terayama, K.: Vision-based egg quality prediction
in Pacific bluefin tuna (Thunnus orientalis) by deep neural network, Scientific Reports, 11, 6 (2021).
(https://doi.org/10.1038/s41598-020-80001-0)
[3] 初見龍樹, 高志利宣, 玉水史子, 寺山慧, 黒田嘉宏, 家永直人: 物体追跡による太平洋クロマグロ
の突進遊泳検出, 第 233 回コンピュータビジョンとイメージメディア研究発表会(発表予定).
[4] 家永直人, 深層学習を用いたワムシ健康診断システムの構築, 日本学術振興会/科学研究費助成
事業 若手研究, 2022 年 4 月~2024 年 3 月.